会長声明
■生活保護法改正に関する会長声明
掲載日:2014.01.21
当会は、平成24年12月13日公布された生活保護法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)が適正に運用されるよう次の点に注視していきたい。
1.改正法は、生活保護の申請に添付する書類、扶養義務者に通知する事項、通知方法等の手続について厚生労働省令(以下、「省令」という。)に委ねているが、生活保護がすべての国民に最低限度の生活を保障するセーフティーネットであることから、省令は、保護を必要とする者を排斥することのないよう明確な規定として、改正法を適切に運用すべきである。
2.生活保護法による保護の基準は、物価指数(CPI)によるのではなく生活保護を受ける世帯の消費実態を反映した指標を用いるべきである。
生活保護制度は、憲法第25条に規定する生存権の理念に基づいて、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その最低限度の生活を保障するシステムである。経済不況下において生活困窮者が増加すれば、生活保護の受給者が増えるのは必然である。受給者のおよそ45%は、65歳以上の高齢者世帯が占め、生活保護制度が年金制度を補完しているというのが実態である。福祉事務所では、生活困窮者が生活保護の申請に赴いても、相談を行うだけで申請には至らせないよう生活保護の申請を窓口で阻止する、いわゆる水際作戦が頻繁に行われていることもあり、実際に保護を受けている者は、生活保護を受ける必要がある者の2割に過ぎないといわれる現状にある。この水際作戦の実態については、生活困窮者の支援活動をしている会員からもその情報が寄せられている。
改正法により、生活保護の申請者には省令で定める書類の添付を義務化し(改正生活保護法第24条第2項)、また、保護実施機関には知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合、あらかじめ通知することが適当でない場合として省令で定める場合を除き、省令で定めるところにより、事前に当該扶養義務者に対し省令で定める事項を通知することを義務化した(同法第24条第8項)。国会審議においても、これらの省令に委任することになる事項の内容(添付書類、通知すべき事項、通知が不適当な場合等)が具体的には明らかにされず、大幅に運用を省令に委ねることになっている。これらの省令の運用の如何によっては、水際作戦を助長し、あるいは生活保護申請のハードルを高くしてその受給を困難にさせかねないことが憂慮され、真に保護を必要とする者がその申請や保護決定から排斥され、餓死・孤立死の悲劇を生むことさえ懸念される。
よって、厚生労働省は、すべての国民が享有している健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害することがないよう、また、憲法が宣言する基本原理に従った法律の解釈運用をするよう省令を定めるべきである。
平成24年8月1日、生活保護法による保護の基準(生活扶助基準)が改正された。物価の下落を主な理由とする生活扶助基準の引き下げであり、激変緩和措置は設けられたが、見直しの指標とした物価指数(CPI)は、パソコンや大型テレビといった高額商品の価格下落の影響を大きく受けていると考えられる。日常生活用品はむしろ上昇傾向にある中での生活扶助基準の引き下げは、憲法の保障する生存権を脅かすものであり容認しがたい。生活扶助の基準の指標を物価指数に求めるのではなく生活保護世帯の消費実態に即した商品役務の価格動向等を指標に用いるよう改めるべきではないか。
司法書士は、生活保護の申請への同行援助等の活動を通して生存権の保護に努めてきたが、当会としても生活保護法の改正を機に保護を必要とするすべての者が適切に生活保護を受けられるよう各界に訴えるなど憲法の理念の実現にさらに邁進してまいりたい。
埼玉司法書士会 会長 知久公子
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