■大家さんが亡くなった!
私が借りているマンションの大家さんが亡くなりました。大家さんの配偶者は既に亡くなられていて、お子さまもいらっしゃいませんでした。葬儀も行われなかったため、相続人がどこにいるのか分かりません。このような場合、家賃はどこに払ったらよいのでしょうか?
建物の賃貸人(大家さん)がお亡くなりになり、相続人が分からなかったとしても、賃料の支払い義務を免れるわけではありません。
大家さんが死亡した場合、大家さんの地位は相続人に移転することとなります。そのため、賃料についても大家さんの相続人に対して支払うこととなります。遺言がない場合、相続人が複数いるときは、大家さんがお亡くなりになったときから相続人の間で遺産分割がまとまるまでの間、建物については法定相続分での共有となります。この間の家賃については、各相続人がその相続分に応じた支払いを受けることになります。支払後に遺産分割がまとまり、特定の方が建物を相続したとしても、支払われた家賃については影響ありません。
もっとも、今回のような相続人の存在が分からないケースでは、支払いの相手方すら分からないので、支払いができないということになります。もちろん、戸籍等の調査をしていけば、相続人の存在についての調査を行うことは可能です。しかし、借主の立場からすれば、相続人やその数、相続放棄の有無などを調べることは容易ではなく、期間もかかるため、支払い時期までには相続人の存在を事実上知り得ない場合もあります。このような場合には、債権者不確知(大家さんの相続人の存在が分からない)として、法務局にある供託所に賃料の供託をすることによって、相続人への支払いに充てることができます。相続人は、供託所に対して、相続人であることを証明する書類(戸籍など)を添付した払渡請求書を提出することによって、供託されたお金の払渡しを受けることになります。
債権者不確知による供託は、「借主さんが過失なくして大家さんの相続人を確知できない場合」に限られます。相続人間のトラブルにより、複数の書面等が出てきて誰に支払ってよいか分からないといったケースでは利用できませんのでご注意ください。
埼玉司法書士会では、第1・第3水曜日の午後6時~8時まで賃貸トラブルに関する無料電話相談を実施しております。詳しくは司法書士会HPをご覧いただくか、司法書士会事務局(☎048・863・7861)までお尋ねください。
(司法書士 吉田 健)
※埼玉新聞 令和元年9月5日から転載