■経営者のための相続・遺言(Vol.3)~相続人の遺留分にご注意ください
遺留分という制度があることをご存じでしょうか。相続をめぐる揉め事を回避したいのであれば、この遺留分にも注意を払う必要があります。本稿では、円満な相続を望むならば軽視できない遺留分について、その概要をご紹介します。
さて、日本の法律では、遺言により、死亡後の財産を誰に承継させるか自由に指定することができます。相続人のうちの一人に全ての財産を相続させる遺言も、相続人以外の人に承継させる遺言もいずれも有効です。また、生前に財産を贈与することもできます。しかし、そのような場合でも相続人には最低限保障された相続分があります。それが遺留分です。遺言者が亡くなった後の相続人の生活を保障するために、法律上の権利として認められているのです。と言っても、全ての相続人に認められているわけではなく、兄弟姉妹または甥・姪(第3順位の相続人)には遺留分はありません。遺留分が認められているのは、夫または妻、子または孫など(第1順位の相続人)と父母または祖父母など(第2順位の相続人)です。
上記のとおり一定の相続人に権利として認められた遺留分ですが、これを主張するかどうかは各人の自由な意思に委ねられています。主張する場合は、遺留分を侵害している相手方に対し、遺留分の侵害額に相当する金銭を請求することになります。なお、経営者の方が当事者となる相続では、自社株式や事業用資産の承継を伴うことがありますが、遺留分を主張してこれらを取得することはできません。遺留分を侵害された相続人が請求できるのは、あくまでも遺留分の侵害額に相当する「金銭」です。この点が平成30年に改正された民法の施行により大きく変わった内容です。この改正は、令和元年7月1日以降に開始した相続について適用されます。
それでは、遺産相続時にどれくらいの割合が遺留分として認められるのでしょうか。遺留分の割合は民法で規定されており、父母または祖父母だけが相続人である場合には3分の1、それ以外の場合には2分の1とされています。ここで、相続人が妻と子(長男、長女)の3名であった場合について考えてみましょう。この場合、遺留分を持つ相続人全体に確保される遺留分の割合は2分の1です。これに各相続人の法定相続分を乗じることでそれぞれの遺留分割合が求められます。このケースでは法定相続分は妻が2分の1、長男・長女が各4分の1ですので、全体の遺留分割合(2分の1)にこれらを乗じると、妻は4分の1、長男・長女は各8分の1が各人の遺留分割合ということになります。
以上、遺留分について簡単に解説させていただきました。経営者の方にとって相続対策は重要です。会社のことを考えれば遺言等の準備は早々に行いたいものですが、同時に相続人間での揉め事を回避するために、遺留分にも配慮した内容とすることが望ましいと思われます。
(司法書士 松田晋治)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和7年1月1日から転載