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■相続法改正【配偶者居住権】~共に歩んできた配偶者のために~-Vol.5

高齢化が進むなかで、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者(以下、「配偶者」といいます。)のその後の生活を保護するための制度が創設されました。住み慣れた家に住み続けること及びに老後の生活資金を確保することを目的としています。

今回の相続法改正以前は、配偶者が自宅に住み続けるためには、配偶者自身が自宅を相続する、もしくは子が相続し同居するといった方法等が取られていましたが、近年、遺産分割協議がまとまらないケースも増えてきています。また、不動産の価値が高い場合に配偶者が自宅を相続してしまうと預貯金等の資産を承継することが難しく、老後の生活資金繰りが厳しくなることも見受けられます。そこで、配偶者が自宅の所有権を相続しなくとも、原則として終身の間、自宅に住み続けられる権利(配偶者居住権)を取得する制度が創設されました。配偶者居住権の評価の具体的な計算方法は割愛させていただきますが、シンプルな事例を挙げて比較してみます。

 

●被相続人(夫)の遺産

土地2,000万円、建物1,000万円、預貯金1,000万円

●相続人 妻、子1人

法定相続分各2,000万円

 

(1)配偶者居住権を利用しない場合 

・妻が土地建物の所有権(3,000万円)を相続し、子が預貯金(1,000万円)を取得。

・妻は子に対し代償金(1,000万円)を支払う。

 

(2)配偶者居住権を利用する場合

・妻が配偶者居住権(評価額1,500万円)、預貯金(500万円)を取得。

・子が配偶者居住権の負担付き所有権(1,500万円)、預貯金(500万円)を取得する。

以上のように、配偶者居住権を利用することによって、配偶者は自宅での居住を継続し、預貯金も取得することが出来るようになります。

配偶者居住権の設定には、次の3つの要件を満たす必要があります。①被相続人の配偶者であること、②相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと、③配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈、または死因贈与のいずれかがあること。③については、遺言を活用することをお薦めいたします。

配偶者居住権は、配偶者と子に血縁関係がない場合や、配偶者との間に子がなく配偶者亡き後は兄弟姉妹などに承継させたい場合など、遺していく側にとっても想いを叶えることの出来る選択肢の一つとなります。

但し、配偶者が施設に入所するなどこの制度の利用が不要になる場合はどうすればいいのでしょうか?もしくは配偶者が年若い方の場合は?不動産を取得した所有者は売却が難しくなる等、長期にわたり負担を強いられることも考えなければなりません。終身ではなく期限を設定するなど、この制度を選択するには注意が必要となります。

 

以上述べたとおり配偶者保護の手厚い制度が出来ましたが、個々の事情により選ぶべき方法は様々です。改正された制度を使わずとも他の方法を選択することで目的を達成することができる場合もあります。出来たばかりの制度で事例の蓄積が少なく、配慮すべき点が多々ありますので、ご興味をお持ちになりましたらまずは司法書士へご相談ください。

(司法書士 髙橋円)

 

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和3年3月1日から転載

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