■まだ早いが、もう遅いになる前に
私たち夫婦には子どもがいません。友人から早めに遺言を書いた方が良いと言われたのですが、夫婦ともにまだまだ元気なので、まだ早いと思うのです。
最近、お子さまのいらっしゃらない家庭が増えてきており、日ごろ付き合いのなかったおい、めいと亡くなられた方の配偶者が相続人となるケースが増えてきています。遺産全体に対するそれぞれの相続人の相続分の割合は、法律によって決まっており、この相続分の割合のことを法定相続分といいます。ただ、具体的に財産を分けるには、財産の評価や、どのように分けるのかを相続人全員の話し合いで決めることになります。相続人の間で日頃付き合いがなかった場合などでは、話し合いを誰が主導すればいいのかわからなかったり、一部の相続人の連絡先が分からなくて困ったりする場合もあります。話し合いがまとまらない時には、家庭裁判所での調停などを経て財産を分割していくことになる場合もあり、時間と労力を要する可能性も出てきてしまいます。
遺言では、あらかじめ財産の分け方を決めておくことが可能です。相続手続きを円滑に進めるため、誰に何を相続させるのか、ご自身の財産を社会に役立てるために寄付するのかなど、あらかじめ「遺言」で決めておくのが有用です。
「遺言」は、全文自筆で書く「自筆証書遺言」と公証人が作成する「公正証書遺言」が多く利用されています。いずれにしても、法律の形式に沿って作成しないと無効となってしまいますので、作成に当たっては、公証人が関与する「公正証書遺言」とすることや司法書士などの専門家に作成の支援の検討も必要です。また、作成した遺言の紛失を避けるためにも「公正証書遺言」は有用です。なお、法務局において「自筆証書遺言」を保管する制度も始まっていますので、そちらを利用しても良いでしょう。
遺言を書くにはまだ早いということはありません。遺言を作成した後も、新たな遺言という方法で、一度残した遺言の内容を変更することも可能です。「遺言」は、脳梗塞の後遺症や認知症などで判断能力が衰えてくると作成できなくなってしまいます。元気な方でも、いつそのような事態に遭遇するかは分かりません。元気なうちに作成することをおすすめします。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ね下さい。
(司法書士 吉田 健)
埼玉新聞 令和5年1月12日から転載