■不動産売却と後見制度
私の母は特別養護老人ホームで生活しています。認知症も進行し、ほとんど会話の内容を理解できない状態です。母の預貯金が減ってきたこともあり、母名義の自宅を売却して施設費に充てようと思っていますが、不動産会社から「後見人を付けないと売却できない」と言われて困っています。成年後見制度を利用しなければならないのはどうしてですか? 制度を利用するには、どうしたらよいのでしょうか?
不動産の売買をするには、契約の内容を正しく理解できる能力が必要です。今回は売主であるお母さまに「契約の内容を正しく理解できる能力があるか」が問題です。質問から推測すると、相談者さまのお母さまは、ほとんど会話の内容を理解できない、意思表示をできない状態であると思います。残念ながら、そのような方は自分ひとりで不動産売却等の契約行為を行うことができません。
では、今回は不動産売却を諦めるしかないのでしょうか?いいえ、そうではありません。このような場合には、売り主であるお母さまに成年後見人を付けることが解決策として考えられます。成年後見人とは「事理弁識能力を欠く常況にある本人(お母さま)」に代わって、本人のために財産管理・身上保護を行う役割の人です。成年後見人が本人に代わって契約行為を行うことで、不動産売却も可能となります。
成年後見制度を利用するには、まず家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう必要があります。医師の診断書等の必要書類をそろえ、家庭裁判所に後見開始の申し立てを行います。申し立てができる人は「4親等内の親族」など範囲が決まっています。親族自身で申し立てをするのが難しいと感じている方は、弁護士・司法書士といった専門職に依頼するのも一つの手です。後見開始申し立て後、家庭裁判所から後見人が選任され、後見人が本人に代わって不動産売却等の契約を行う流れとなります。
なお、自宅売却は本人にとってとても大きな影響を及ぼします。そのため、自宅不動産を売却(処分)するには、別途、家庭裁判所の許可を得ることが要件となっています。現在施設で生活していて自宅が空き家となっている(住民票を施設に移している)場合であっても、家庭裁判所の許可は必要です。許可を得る際は、家庭裁判所に売買契約書案、査定書、固定資産評価証明書等を提出し、不動産が不当な安価で売却されないかのチェックが入り、本人の財産保護が図られています。埼玉司法書士会はYouTubeで「よくわかる成年後見教室」を配信していますのでご覧ください。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 椎名秀樹)
埼玉新聞 令和5年3月9日から転載