埼玉司法書士会

司法書士は、くらしに役立つ法律家です。

■新しく特別の寄与の制度が創設されました-Vol.6

A子さんは、10年前に夫を事故で亡くした後も、同居していた義理の母を長年介護してきました。なのに、義理の母が亡くなったときには、一切面倒を見てこなかった夫の兄弟がすべて財産を持っていってしまい、A子さんには相続権がないため遺産を一銭も受け取れませんでした。

以前はこのようなケースで、亡くなった人への介護などの貢献に対して、相続権の有無によって不公平な結果になることも多いとの指摘がされていました。今回の相続法の改正により2019年7月1日以降におこった相続については、相続人以外の者の被相続人への貢献を考慮した特別寄与料(とくべつきよりょう)の制度が創設され、相続人以外の者も遺産をもらうことができるようになりました。

以前からも相続分を調整するための寄与分というものがありましたが、これは相続人に限定されたものでした。A子さんのように相続人以外の者が一定の要件を満たせば、相続人に対して、その寄与に見合った分の金銭を請求できる権利が創設されたのです。

特別寄与料を請求するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

要件① 被相続人の親族であること

この親族とは被相続人の配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族のことをいいます。ここでは、相続人や相続放棄者等の相続資格を失った者は除かれます。また、親族以外の者や、内縁の妻、事実上の養子は対象にはなりません。

要件② 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別な寄与をしたこと。

これは、被相続人を自宅で介護していた場合や、営んでいた事業の手伝いなどを無償で行っていたことが対象になります。あくまで無償での行為に限定されていますので、介護について謝礼金を受け取っている場合や、事業について労務の対価として給与を受けているときは対象にはなりません。

そして、特別寄与料の金額は、相続人と特別寄与者との間の協議により決定し、相続人がそれぞれの法定相続分の割合で負担します。相続人との間で話し合いがつけばよいのですが、協議がまとまらない場合は家庭裁判所で決定することになります。

家庭裁判所は、寄与の時期、その方法や程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して金額を定めることができることとされています。そのため、この特別寄与料を請求しようと考えている場合は、それまで行ってきた寄与の実情が分かるもの、例えば介護日誌や介護に伴って支出した費用の領収書、出勤簿、日記帳、被相続人とのやり取りを記録したメモなどの資料を整理しておくことが望ましいと思われます。また、家庭裁判所への申立てを行う場合は、期限がありますので注意が必要です。

このように、特別寄与料は特別寄与者と相続人との協議により決定するため、話がまとまらなく家庭裁判所へ移行するケースも多く考えられます。また、家庭裁判所においても認定要件が厳しく、受け取れる額も限定的になると思われます。もし、親族の中に自分が経営する会社に対して長年の貢献をしてくれた、または親の介護をしてくれた等により、その者に一定の財産で報いてあげたいと考えるなら、生前贈与をするか、遺言書を作成し遺贈を活用するのが確実です。特に遺言書は、他の相続人への財産の分配方法も決められますので、スムーズな事業承継を行うのに有効です。生前に準備を行い、いらぬ争いを防止するのも亡くなっていく者の務めなのかもしれません。

(司法書士 大鹿浩彰)

 

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和3年5月1日から転載

各種相談窓口
Copyright(C) 埼玉司法書士会 All Rights Reserved