■相続の放棄?
先日、父が他界しました。戸籍や除籍を取り寄せたところ、父の相続人は母と子である私の2人です。遺言書がなかったこともあり、私は相続の放棄をして、父のすべての遺産を母が引き継ぐようにしようと考えています。私はどのような手続きをすればよいのでしょうか。
「自分は相続を放棄したいです」というご相談を受けることがあります。よくお話をうかがうと「自分は遺産を受け取らずに、他の相続人が引き継ぐようにしたい」ということが多いです。
それでは、Qにある母が全ての遺産を引き継ぐにはどのような手続きをすればよいでしょうか。
まず、遺産分割協議という相続人全員による話し合いにより、母が遺産の全てを引き継ぐという方法があります。この話し合いの結果を遺産分割協議書という書面にして、相続人全員が署名押印すれば、母一人が遺産を引き継いだということになります。
また、相続分の譲渡という方法が考えられます。これは、Qにおける子の法定相続分2分の1を母に譲ることです。子が母に相続分の譲渡をし、母がこれを承諾すれば相続分の譲渡証書という書面を作ることにより、母が一人で遺産を引き継ぐことができます。
これら遺産分割協議、そして相続分の譲渡において注意しなければならない点は、亡くなった父に借金がある場合、子は借金を引き継ぐことになってしまうことにあります。母が借金も全て引き継ぎたい場合、債権者と相続人全員で話し合いをする必要があります。
最後に、子が家庭裁判所に対して相続放棄の申述をする方法が挙げられます。これは、亡くなった父との関係で相続人でなくなる手続きです。遺産に借金がある場合でも、子は相続人ではなくなるために借金を背負わずに済みます。
この相続放棄の申述で注意が必要なのは、子が相続人でなくなると、亡くなった父の父母、祖父母、この方たちが他界している場合は、父の兄弟姉妹やおいめいまで相続人の範囲が広がる可能性がある点です。これでは、母に遺産の全てを引き継いでほしいという気持ちを実現できなくなるかもしれません。また、相続放棄の申述期間が法律で定められているなど、他にも注意しなければならないこともあります。
相続があったとき、どのような手続きを取るべきか慎重に考える必要があります。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 窪 秀之)
※埼玉新聞 令和元年8月1日から転載