埼玉司法書士会

司法書士は、くらしに役立つ法律家です。

■相続法の改正(2)-遺留分制度について-Vol.2

自社の株式や事業用の資産を後継者に円滑に引き継ぐための方法として遺言があります。遺言とは、亡くなられた方の財産を誰に引き継ぐのか予め決めて、法律に定められた書面に遺しておくことです。どのように引き継ぐかは遺言をする方の自由ですが、相続人のうち一定の者(配偶者・子・直系尊属)には、遺留分が認められ、亡くなられた方の財産の内の一定の割合について請求できる権利が認められています。遺留分はあくまで請求できる権利ですので、行使されなければ何らの問題も発生しません。そうは言っても、遺留分侵害額を請求された場合には、相続争いに繋がりかねません。経営者の相続で問題となるのは、その財産の大半が自社株式と個人所有の事業用の不動産(以下、自社株等という)といった場合で、後継者に自社株等を承継させないと事業に支障をきたす可能性があり、後継者以外の相続人に配分する財産が少ないケースです。

遺留分の算定の基礎となる財産の価額は、①相続時の財産、②相続開始前の一定の贈与、③特別受益から債務を引いた価額となります。特に、注意していただきたいのは②の相続開始前の一定の贈与です。生前に自社株等の贈与を受ければ、相続の際には問題とならないということではありません。もっとも、相続財産に戻して計算する贈与の対象期間は、相続法改正以前は、判例で相続人への贈与は全てが対象とされていましたが、相続法の改正により、相続開始前10年間の相続人への贈与のみが対象となると改められ、相続開始前10年より以前の贈与については遺留分の問題の対象とならないこととなりました。

遺留分を侵害された場合には、遺留分権を有する者は、その権利を行使することが可能となります。遺留分は一定の割合です。そのため、相続法改正以前は、遺留分を侵害する遺言はその範囲(その割合)で無効とされ、遺留分権利者がその割合の持分を保有するということとなっていました。そのため、自社株等がその対象となった場合、事業の運営に支障をきたす場合もありました。今般の法改正により、遺留分権を行使されたとしても、金銭的な請求ができるに留まることとなり、後継者に円滑な承継をすることが可能となりました。

このように、相続法の改正により、贈与について遺留分の基礎となる財産は10年以内の贈与に限られ、かつ、遺留分を侵害した場合でも金銭賠償ができれば解決できることとなりました。遺留分相当額の金銭を預貯金や生命保険等で準備ができれば対策可能となります。そもそも、遺留分については予め放棄してもらうことも可能(家庭裁判所での審判が必要ですが)ですので、事業承継の話し合い等の際に打診してみる事も考えても良いのではないでしょうか。また、株式であれば、無議決権株式を発行する等の対応策も考えられます。

円滑な相続・事業承継のためには、予めの対応が必要な時代となっています。それぞれのケースで対応策は様々です。自らの状況に応じた対応策を考えるためには司法書士等の専門家に相談することが大切です。

(司法書士 吉田 健)

 

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和2年9月1日から転載

各種相談窓口
Copyright(C) 埼玉司法書士会 All Rights Reserved