■私は相続したくありません
1か月前に父親が亡くなりましたが、私はすでに結婚して実家を離れているため、何も相続するつもりがありません。相続人は私の他には、母と兄がいます。私は、どのような手続きをとればよいのでしょうか。
お父様がお亡くなりになって気落ちされているところに、現実的な相続問題が持ち上がってきたわけですね。心中お察し申し上げます。さてお尋ねの件ですが、相続するつもりがない相続人がとりうる手段としては、基本的に二つの方法があります。
一つ目の方法は、相続人全員での遺産分割協議です。お母様、お兄様とともに話し合いをして、相談者ご本人は何も相続しないという主張をするものです。当事者だけでの話し合いですので裁判所が関与することはありませんが、協議した内容を遺産分割協議書という書面にしておきます。
二つ目の方法は、家庭裁判所への相続放棄の申述です。こちらは、亡くなったお父様の権利も義務も一切引き継がないという効力が発生するものです。ところで、お父様には、生前に借金などの債務があったでしょうか。債務がある場合は、家庭裁判所への相続放棄の申述をするか、限定承認の申述をすることが多いです。相続放棄は、財産も債務も一切引き継がないというものですが、一方、限定承認は、被相続人(=亡くなった方)の債務がどの程度あるか不明で、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐものです。なお、限定承認は、相続人全員の意思が統一していないとすることができません。
遺産分割協議で進めるのか、相続放棄や限定承認の申述をするのかは、それぞれの手続きごとでその後の法律関係に与える影響が全く異なる結果となる場合もありますので、慎重に考えなければなりません。しかし、実はあまりのんびりしていられません。というのも、相続放棄や限定承認の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならない」と民法に定められているからです。この3ヶ月という期間を過ぎてしまうと、お父様の一切の権利義務を承継するとみなされてしまいますので、ご注意ください。
私たち司法書士は、遺産分割協議書や相続放棄の申述書を作る際に、お力になれるかもしれません。例えば、お父様が土地や建物を持っていた場合、名義変更のための書類を作る一環として、ご依頼があれば遺産分割協議書を作成します。また、家庭裁判所に提出する相続放棄の申述書についても、相談者の方に内容を伺いながら書面にしていくことができます。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 嶋村佳織)
※埼玉新聞平成28年12月1日から転載