■私も遺言書を書くべき?
現在、私は自宅で長男と同居しており、私亡き後の自宅は長男に継いでもらいたいと思っています。私の主な財産は、夫から相続した自宅(土地建物・1500万円相当)と預金500万円です。長男と長女、2人の子は仲も良いです。こんな私でも遺言を書いておいた方が良いのでしょうか?
結論から申し上げれば、念のために遺言を書いておいた方が良いでしょう。今回のケースでは、法定相続人である2人の子は、遺産に対して各2分の1の権利、遺産総額が2000万円ですから1000万円ずつの権利を有しています。自宅を長男だけが継ぐ場合、長男が1500万円相当の遺産を相続する一方で、長女は500万円相当の遺産しか相続できないことになります。2人が協議してその配分内容で合意するならば問題は生じませんが、長女が不足額の500万円の権利を主張した場合には対処が必要です。長男が代償金として自身の預金等から500万円を長女に支払えれば均衡が取れますが、用意できなければ紛争になりかねません。現時点で2人の仲は良いそうですが、それは親であるあなたが存命であり仲を取り持っているからかも知れません。そこで、遺言を活用することになります。遺言で「自宅は長男に相続させ、預金は長女に相続させる」と分割方法を指定しておくのです。
遺産の分割内容の決定においては遺言による指定が最優先されますので、2人はそれに従わなければなりません。長女の相続分が500万円しかないことに変わりありませんが、長女の遺留分(法定相続分のさらに2分の1。=500万円相当)は侵害していないので長女はそれ以上の相続分を主張できません。よって、長男が代償金の負担もなく1500万円相当の自宅を継ぐことが出来ます。ただし、長女としては納得できないこともあるでしょうから、遺言には「どうしてこのような分割方法にしたのか」というあなたの想いを記しておくことをお勧めします。これを『付言』(ふげん)と言います。付言には法的拘束力こそありませんが、あなたの想いを伝えることで遺された相続人達の気持ちを納得させる効果が期待できます。
財産も決して多くはなく、相続人の仲も良いという場合であっても、相続の場面では思わぬトラブルになることがあります。一度、ご自身の状況について相談の上、遺言書の作成をご検討されてはいかがでしょうか。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 神戸光邦)
※埼玉新聞平成28年10月6日から転載