■経営者のための会社法務(Vol.11)~資本金についてご存知ですか?~
今回は、会社の資本金についてお話しします。日常、特に説明することも、説明を受けることもない「資本金」ですが、いったい何なのでしょうか。例えば、資本金100万円の会社と10億円の会社では、10億円の会社の方が信用できそうですが、それは正しい理解なのでしょうか。そういう話です。
株式会社の場合、設立又は募集株式発行の時に払い込まれた財産の価額が、原則として全額、資本金に計上され、資本金は登記されます(半額までは資本金に計上しないものとすることができますが、その場合、資本準備金に計上しなければならないものとされています)。従って、この瞬間は、資本金として計上された額の財産が、会社にあるものと考えても良いでしょう。しかし、会社の財産は刻々と変動します。順風満帆な会社では、資本金は100万円であっても、純資産(総資産から総負債を差し引いた残額)は10億円もあるかもしれないし、逆に、経営不振に陥っている会社では、資本金が10億円であっても、純資産額は100万円しかないとか、あるいは、マイナスである場合もあります。つまり、資本金は、その会社の現に有する財産の額とは全く関係がないのです。
一方、会社は本来、株主から預託された財産を運用して、配当という形で還元する、一種の信託組織です。この「配当」は、剰余金の限度でしか行えません。剰余金は、原則として、純資産額から資本金と準備金(利益準備金と資本準備金の2種類があります)を差し引いた残りです(自己株式を保有していれば、その取得価額も差し引きます)。この額がプラスにならなければ、その会社には剰余金はなく、株主への配当はできないのです。
会社の純資産のうち、株主への配当に充てることができるのが剰余金だとすれば、純資産から差し引いた資本金と準備金は誰のための財産なのでしょうか。それは、債権者のための財産なのです。会計の専門書などでは、このことを「資本金とは、債権者への最終弁済引当金である」などと表現する場合があります。
株式会社、有限会社及び合同会社は有限責任組織ですから、会社の財産をすべて処分しても債権者への弁済ができないとき、連帯保証等をしていない限り、出資者がそれ以上の責任を問われることはありません。そうなると、株式会社と信用取引をする者は、その会社の財産状況を知りたいと思うのが正当な要望です。したがって、株式会社、有限会社及び合同会社の、有限責任会社の債権者は、会社に対して、計算書類(貸借対照表や損益計算書)の閲覧あるいは写しの交付を求めることができるものとされています(合名会社と合資会社は無限責任社員が会社債務の不足分について弁済責任を負うので、計算書類の公開義務はありません。資本金が登記されないのも同じ理由です)。さらに株式会社の場合、債権者からの請求があった場合だけでなく、「公告」という形で計算書類を一般に公開する義務も課されています(もっとも、公告義務は遵守されていないことが多いようです)。経営資金を金融機関からの借り入れで賄っている場合、決算が終わるたびに決算書の提出を求められるのは、法律的にも根拠があるのです。金融機関でなくても、取引の相手方に対して、決算書類の交付を求める権利があることは、自己防衛のためにも覚えておかれると良いでしょう。
(司法書士 鈴木 一也)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和5年5月1日から転載