埼玉司法書士会

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■経営者のための会社法務(Vol.12)~資本金を増やすには、また、減らすには~

 前回お話ししたとおり、資本金とは、債権者への弁済を優先させる計上額に過ぎず、会社の財産状況を反映するものではありません。しかし、世上、資本金はこれとはまったく異なる機能を果たしています。公的な入札資格や、事業の許認可を取るために、一定の資本金額を要求されたり、利益の有無にかかわらず、資本金額に応じて、一定の地方税が課税されたりします。そのため、資本金を増やしたい、あるいは、減らしたいというご相談を受けることがあります。

 資本金を増やす方(増資)の代表は募集株式の発行です。これには新株発行と自己株式の処分の2種類がありますが、新株発行では、払込財産の価額が資本金に計上されますので、資本金は増えます(自己株式の処分では資本金は増えません)。方法は他にもあります。会社に準備金又は剰余金があれば、これを資本金に振替えることができます。準備金は資本金の欠損に備えて計上される予備資金であり、剰余金は、もともと株主に分配できる財産ですから、これを資本金に振り替えることは、株主総会の決議で行うことができます。かつては、剰余金の振替えはみなし配当として、株主に課税されましたが、現在、その取扱いは廃され、課税されませんので、会社も、株主も、金銭的負担を負うことなく、資本金の増加を実現することができるのです。なお、登録免許税は増資額の0.7%(最低3万円)です。

 これに対して、資本金の減少(減資)は大変です。減資は債権者の優先弁済額を減らすことになりますが、債権者は会社の構成員ではないので、債権者の決議で行うような方法は取れません。そのため、減資の決定は株主総会の決議で行い、それとは別に、債権者に異議を述べる機会を与えるのです。債権者には、会社が認識している者以外に、認識していない者もあり得るので、個別の通知だけでは足りず、官報公告が必要になります。内容は、減資に異議がある場合は一定期間(1ヶ月以上)内に申出ることを求めるのです。異議者に対しては弁済や担保の供与が必要になります。しかし、登記簿を見ただけでは、減資が会社の弁済能力に影響があるかないかわかりませんから、直近の決算内容を債権者に知らせる必要があります。株式会社の場合、直前の決算を定款所定の方法(登記されています)で公告し、有限会社、合同会社では決算公告の制度がないので、債権者の求めに応じて直接、計算書類の閲覧等をさせる必要があります。これらの手続には、少なくとも6~15万円の費用と、1ヶ月半くらいの期間がかかります。この額と期間は、減資額の多寡とは無関係にかかります。登録免許税は一律3万円ですが、公告費用と合わせて最低でも10万円もかかります。とはいえ、以後、法人地方税の最低額が下がりますから、減少額によってはすぐに元が取れます。減少した資本金額は原則として剰余金に計上されますから、株主への配当に充てることもできます。なお、減資だけなら課税されませんが、減資額を株主に分配すれば、課税対象になります。

(司法書士 鈴木一也)

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和5年7月1日から転載

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