
■経営者のための会社法務(Vol.13)~新たな法人制度「労働者協同組合」とは?~
今回は、令和4年10月から始まった「労働者協同組合」についてご紹介したいと思います。「労働者協同組合」とは、労働者協同組合法に基づいて設立された法人で、自然人である組合員が出資をして、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする法人です。
「労働者協同組合」では、労働者派遣事業を除くあらゆる事業を営むことが可能です。介護・福祉関連 (訪問介護等)、子育て関連(学童保育等)、地域作り関連(農産物加工品販売所等の拠点整備等)など地域における多様な需要に応じた事業が想定されています。当然、許認可等が必要な事業については、その許可・認可等を受けることが必要となります。
設立には、3人以上の発起人を必要としますが、NPO法人の認証や企業組合の許可の様な、設立に際しての行政庁による許認可等の手続は必要とせず、創立総会等の設立手続を経て、設立登記をすれば設立できます。設立後には、都道府県知事に届け出ることが必要で、運営は都道府県知事の監督を受けることになりますが、NPO法人や企業組合に比べて簡単に設立できます。
組合員は出資をすることが必要ですが、組合員との間で労働契約を締結することとなり、出資配当は認められません。剰余金の配当は、原則として、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うことは可能です。組合と組合員との間では労働契約を締結することで、最低賃金法が適用されることになりますので注意が必要です。なお、理事の職務のみを行う組合員や、監事である組合員は例外とされ、労働契約を締結する必要はありません。
労働者協同組合の総会は、出資金額にかかわりなく1組合員1議決権となります。そのため、運営(経営)のための決定についての合意形成に時間がかかることも考えられますので、「労働者協同組合」を設立して事業の運営を検討するにあたってはご留意ください。
一見すると、働く人が出資して運営できる組織ですので、会社経営とは関係がないと考えられなくもありません。しかしながら、3人以上が集まり、共同して事業を立ち上げる際の、運営主体としての新たな選択肢としてあり得るものと考えられます。また、中小企業の事業承継対策として、中心として担う後継者がいない様な場合において、その会社の事業について、労働者が出資して労働者協同組合を作り、事業継承の受け皿となることも考えられます。
「労働者協同組合」に関する情報や実際の活用例等については厚生労働省や埼玉県のホームページで紹介されています。設立を検討する際には、ご参照いただければと思います。設立に向けた設立登記等の具体的な手続についてご不明な点がある場合には、登記の専門家である司法書士をご活用ください。
埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください。)でも相談を行っておりますので、お気軽にお問合せください。
(司法書士 吉田 健)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和5年9月1日から転載