埼玉司法書士会

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■経営者のための会社法務(Vol.14)~奨学金等の返済で給料の差押命令が届いた場合~

 奨学金等の返済の滞納により、給料の差し押さえを命じる差押命令が裁判所から会社に届く場合があります。

 ここ数年、奨学金に関するニュースが取り上げられることが多いですが、それは、大学卒業後、奨学金を返済できない人が増加していることに起因します。毎月の返済額は2~3万円というケースが多く、新卒初任給の給料に比し、決して少ない金額ではありません。

 一方で、「借りたものは返すのは当たり前」「借りるときになぜ返済のことを考えなかったのか」といった意見もあるでしょう。しかし、18歳に将来の見通しを求めるのも酷な話ですし、人生に想定外はつきものです。そして、日本の半数の家庭が今や奨学金を利用する、つまり借金をしなければ大学へ進学できない状況であることも事実です。

 また、「学費の安い国立大学へ進学すればいい」という意見もあるでしょう。しかし、国立大学の年間授業料は1977(昭和52)年は約10万円でしたが、2018(平成30)年は約53万円に上昇しています。私立大学に比べれば授業料が抑えられているとはいえ、決して安くはありません。

 昨今の奨学金の返済を取り巻く状況を鑑み、政府や日本学生支援機構が支援策を打ち出していますが、まだまだ不十分です。

 奨学金の返済が滞ると、奨学金の貸付元や、貸付元から債権譲渡を受けた債権回収会社は、債務者や保証人に対して訴訟や支払督促により債務名義を取得し、給与の差押命令を申立てる場合があります。

 差押命令を受け取った会社は、差押命令に同封されている陳述書を提出する必要があります。陳述書は債務者の雇用の事実の確認や支払の意思の有無を記載するものです。陳述書に虚偽の内容を記載したり、提出しなかったりすると、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。速やかに対応することが必要です。

 従業員の方が、奨学金の返済の延滞等で給料の差し押さえを受けてしまう場合が有るかもしれません。法律で定められたルールで対応し、差し押さえを受けたという理由だけで、解雇等の不利益な取り扱いをしないよう注意してください。

 会社に対し裁判所からの差押命令が届いた際の陳述書の作成に関するご相談がある場合には、司法書士をご活用ください。

 埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください)でも相談を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

(司法書士 押井崇)

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和5年11月1日から転載

 

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