■経営者のための会社法務(Vol.16)~登記される内容にも目を向けましょう~
株式会社をはじめとする法人は、法定された内容を登記し、公示することが義務付けられています。登記申請を司法書士へ依頼する場合、指定された書類等を徴求し、必要書類への押印等を行うという一連の作業の中に埋没し、登記そのものの役割や意義について、あまり印象に残らないのが実状だと思います。今回は登記される内容について取り上げてみます。
まず、法人に関連するすべての内容が登記される訳ではありません。例えば、株主の氏名、役員の任期、事業年度といった法人経営に関連し、重要と思われる内容でも登記の対象となっていません。特に役員の任期が登記の対象ではないことから、役員の任期が満了していたにもかかわらず登記申請を失念していたという経験をお持ちの方も少なくないでしょう。役員の任期も登記の対象に加えるべきではないかという議論もありますが、今のところ対象ではありません。なお、従前と役員の顔ぶれが変わらない場合でも、任期満了に伴い、役員の変更登記が必要となりますのでご留意ください。
登記される主な内容としては、商号、本店(所在地)、(事業)目的、発行済株式の総数、資本金の額、役員の氏名、代表者の住所などが挙げられます。
この中で(事業)目的に着目してみます。文字どおり事業の内容を登記するわけですが、公示される対象として、主に取引先や金融機関を念頭におくことになるでしょう。
会社の事業内容が、登記された目的から一目瞭然であることが望ましいと思います。
登記される順番、数も重要です。事業の中心となる目的は上位に登記する方がいいですし、数が多すぎてしまうと会社の特徴や個性が霞んでしまいがちです。例えばホームページの製作を中心事業に据えて設立する会社が、副業として、いずれ飲食店の経営や不動産取引も手掛けたいので取りあえずそれらの事業も目的に含めたが、設立後数十年経過し、設立当初の思いは忘却の彼方、でも登記はそのままといったケースはよくあります。大企業であれば話は別ですが、地元に密着した中堅的な会社にもかかわらず、目的が総花的に登記されているのは、個人的にはいかがなものかと思います。
「目的」の変更は、許認可を必要とする事業を新たに取り入れるといった何らかのきっかけがない限り、変更の頻度がそれほど高くない登記です。この機会に登記されている目的の内容を確認されてみてはいかがでしょうか。
なお、目的の変更に要する登録免許税は3万円です。他の登記を変更する必要がある場合、例えば「商号」「株券を発行する旨の定め」「株式譲渡制限に関する規定」などを変更する場合に、あわせて目的の変更登記を申請すれば、登録免許税は包摂され全部で3万円となります。
登記は地味なイメージかもしれません。しかし、少なくとも会社のマイナスイメージにはならないよう登記内容に留意することも経営者の皆様にとって必要な視点ではないでしょうか。
埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください)でも相談を行っておりますので、お気軽にお問合せください。
(司法書士 押井崇)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和6年3月1日から転載