■経営者のための会社法務(Vol.18)~社長の住所を知られないようにするには~
日本にあるすべての会社は法務局で登記されています。登記されている内容は、会社の謄本を取ることで確認することができます。ポイントは、手数料を払えば、誰でも、どの会社の謄本でも自由に取得できることです。
登記する内容は、法律で決められており、会社名、会社の住所、事業内容、資本金の額、役員に関する事項、その他諸々です。本コラムでは、これらの内、役員に関する事項に注目してみたいと思います。
株式会社の役員として、一般的には、取締役、代表取締役、監査役などが挙げられますが、これらの役員は名前を登記しなければなりません。そして、代表取締役(※)は名前に加えて住所も登記しなければなりません。人々が自らの住所が公開されることに対して抵抗を抱くことが少なかった時代もかつてはありましたが、時代は変わり、現在ではプライバシー保護が強く意識されるようになりました。そこで、会社の謄本を取るだけで代表取締役の住所を誰でも簡単に知ることができるのは問題ではないか、といった声が多く聞かれるようになりました。しかし、法律で登記する義務がある以上、住所を登記しないわけにはいきません。
そこで議論の末、商業登記規則の改正により、代表取締役の住所の一部を非表示とする措置が創設され、令和6年10月1日から施行されることになりました。これを簡単に説明しますと、代表取締役の住所は従来通り登記しなければなりませんが、非表示を希望する申出があった代表取締役については、一般に公開する住所は、政令指定都市を除いて、最小行政区画(さいたま市の場合は「さいたま市浦和区」など)までとなります。例えば、ある代表取締役の住所が「埼玉県越谷市○○1番地1」だとしたら、法務局のコンピューターには「埼玉県越谷市○○1番地1」と住所の全部が記録されていますが、謄本には「埼玉県越谷市」までしか表示されません。この非表示を希望する申出は、会社の設立、代表取締役の就任、代表取締役の住所変更などの登記申請と同時ではないとすることができず、非表示を希望する申出のみを単独ですることはできません。
このように、住所非表示の措置をとればプライバシー保護という点からは安心できますが、元々、会社に関する一定の事項を登記して広く公開するということは、会社制度に対する信用の維持を図り、安全かつ円滑な取引に役立てる意味がありました。代表取締役の名前と住所を公開することで、その責任の所在が明らかとなり、安心してその会社と取引できるという効果もあると考えられます。そのように考えると、住所を非表示とすることで、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類が増えるなど、一定の支障が生じる可能性もあります。まだ、この制度は施行されていませんが、施行後に住所非表示の申出を検討する際には、実際にどのような影響があるのかを見極める必要があるでしょう。
(※)代表取締役とは、法律上の呼称で、会社を対外的に代表する権限のある取締役のことをいいます。どの会社でも社長は代表取締役になっていますが、社長以外の取締役(副社長、専務、常務など)も代表取締役になっている場合があります。
埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください。)でも相談を行っておりますので、お気軽にお問合せください。
(司法書士 上松 隆行)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和6年7月1日から転載