埼玉司法書士会

司法書士は、くらしに役立つ法律家です。

■経営者のための会社法務(Vol.5)~会社経営者(株主)が認知症になると何に困る?~

1.株主が認知症になると会社の重要な決定ができない
 自社の株式を100%持っている会社経営者(株主)がいらしたとします。この会社経営者が認知症で判断能力が低下した場合、会社経営にどんな支障が出るでしょうか。
 取締役の選任、計算書類(決算)の承認、定款変更、場合によっては代表取締役の選定など会社にとって重要な決定は株主総会の決議で行います。株主である会社経営者が認知症で判断能力が低下すると、株式の議決権行使ができず、株主総会で重要な事を決められなくなります。例えば、会社経営者が認知症になったことにより、新たな取締役を選任する必要が生じても、株式の議決権行使ができないので選任できないという事態が生じます。

2.成年後見人をつければ解決するか?
 認知症となった会社経営者(株主)に成年後見人をつければ問題は解決するでしょうか。事前に任意後見契約を結んでなかった場合、成年後見人等を誰にするか決めるのは家庭裁判所となります。家族間で対立があったり、財産が多かったり、後見人になった後に複雑な法律行為を行うことが予定されていたりすると、家庭裁判所は成年後見人に司法書士や弁護士などの専門職を選ぶ可能性があります。第三者の専門職が成年後見人となった場合、会社にとって最善の議決権行使ができるのかどうかという問題が生じます。後継者争いなどが生じていた場合、第三者の専門職後見人も、誰を役員に選べば良いのか判断できないかもしれません。
 なお、家庭裁判所に後見開始申立をした際に、後見人候補者を挙げておけば、その人が後見人に選ばれる可能性もあります。会社の後継者を後見人候補者に挙げて、後見人に選ばれれば、後継者が株式の議決権を行使できます。ただし、成年後見制度が本人を保護する制度である以上、後見人による株式の議決権行使は何でも自由にできる訳ではなく、保全的・暫定的範囲に限られるのではないかという議論もあります。

3.任意後見契約を使った事前対策
 判断能力が低下する前に、会社経営者が後継者と任意後見契約を結んでおけば、会社経営者の判断能力が低下した際に、ほぼ確実に、後継者を任意後見人にすることができます。任意後見契約を結んだ際に、株式の議決権行使についても任意後見人に代理権を与えるようにしておけば、任意後見人となった後継者が株式の議決権行使を行えます。ただし、任意後見人には「本人の意思を尊重」するという義務がありますので、この点に注意して議決権行使をする必要があります。

4.民事信託を使った事前対策
 判断能力が低下する前に、会社経営者と後継者とで信託契約を結び、会社経営者の持っている株式を後継者に信託することにより、株式の議決権を後継者が行使できるようになります。信託を組んだ後に、会社経営者が認知症になっても、引き続き議決権は後継者が行使できます。
なお、信託財産からの利益を受ける人を会社経営者としておけば、信託を組んでも贈与税は発生しません。
 また、会社経営者の判断能力が低下しないうちは、会社経営者自身が議決権の行使について後継者に指図できるようにしておく方法もあります。
 成年後見制度、民事信託等については、司法書士等の専門家にご相談ください。

(司法書士 柴崎智哉)

 

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和4年5月1日から転載

各種相談窓口
Copyright(C) 埼玉司法書士会 All Rights Reserved