■経営者のための会社法務(Vol.6)~その取引、利益相反ではないですか?~
取締役には、会社に損害を出さないようにする責任があります。
では、取締役自身が会社と取引する、例えば会社からお金を借りたり、自身が所有する不動産を節税のため会社に売却したり、代表取締役が自身の借入れを会社に債務引受させたりしたいときは、どういったことに気をつければよいのでしょうか。
同一人物が一方では売主で、他方では買主たる会社の取締役であるようなケースでは、公正な判断を期待できない心配があります。このようなケースを「利益相反」といい、会社法は、リスクを回避するため通常の取引より慎重な手続きを定めました。
具体的には、取締役会を置く会社であれば取締役会の承認決議が、取締役会を置かない会社であれば株主総会の承認決議が原則として必要です。もし承認を得ずに利益相反取引をしたときは、会社は、取引をした取締役に対し、取引の無効を主張できるとされています。ただし、制度を悪用されることのないよう、対外的には承認を得ていないことを知っていた第三者に対してしか主張できません。したがって、例えば個人事業主から法人成りした会社が取締役会(または株主総会)の承認を得ずに代表取締役の個人事業主時代の債務を引き受けたような場合、承認のないことを知らなかった債権者との間では、会社は債務引受が無効であると主張して債権者からの支払請求から逃れることができないことになります。
決議要件についても、見ておきましょう。取締役会を置く会社において取締役会で承認決議を行う場合、利益相反取引を予定する取締役は、特別の利害関係を有する者として議決に加わることができず、定足数にも算入されません。他方、取締役会を置かない会社において株主総会で承認決議を行う場合は、株主が利益相反取引を予定する取締役その人であったとしても決議に加わることができ、この点で大きく異なります。
ところで、承認の有無に関係なく、取締役との利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、取引をした取締役はもちろん、承認決議を行った取締役会で決議に賛成した取締役や決議に参加して議事録に異議をとどめなかった取締役は、会社から損害賠償責任を追及される可能性があります。取締役自身が任務を怠っていないことを証明できれば責任を免れますが、取引の内容が会社との直接取引(冒頭の事例でいえば会社からお金を借りたり、不動産を会社に売却したりといった取引)であるときは、取引をした取締役自身は、任務を怠っていないことを証明しても責任を免れることができません。もっとも、株主全員が同意すれば、この損害賠償責任を免除することができるとされています。
損害賠償責任の消滅時効期間は、損害賠償請求できることを認識したときから5年間(改正民法が施行された令和2年4月1日より前に利益相反取引がされていた場合は10年間)、損害賠償請求できるときから10年間です。代替わり等で代表取締役を交代した後になって追及される可能性もあります。その取引が利益相反に該当するかどうか判断に迷われたら、司法書士等の専門家に確認されることをお勧めします。
(司法書士 武井光崇)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和4年7月1日から転載