埼玉司法書士会

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■経営者のための会社法務(Vol.7)~相続で揉めないために~

 多くの会社経営者にとって、共通の悩みは後継者の問題だと思います。「うちは長男が後継者なので安心」のはずが、相続の際に予想外の揉め事に発展する可能性があります。以下、例をあげて説明します。

 甲野太郎さん(75歳)は、40年前に甲野商事㈱を設立しました。従業員50名を有し、業績も好調で、長男(45歳)が後継者として経営に携わっています。一方、二男(40歳)は、一般企業に就職しています。

 太郎さんは、自身の相続を円滑に進めるために遺言を遺すつもりです。主な遺産は、自宅不動産、甲野商事㈱の株式、金銭(預貯金)ですが、遺産総額の約半分を占めるのが甲野商事㈱の株式です。自宅不動産は同居している長男に、甲野商事㈱の株式は後継者の長男に、金銭(預貯金)は、二男に少し多めに相続させたいと考えています。遺言の内容を二人の子どもに伝えたところ、「兄貴が相続する遺産は明らかに私より多い。均等の配分を希望する。」といった不満の声が二男よりあがりました。

 これには太郎さんも困りました。仮に金銭(預貯金)をすべて二男に相続させたとしても二人の相続分は均等にならないどころか、二男の遺留分も侵害してしまうため、予定している遺言では、二人の子どもの間に揉め事が生じかねません。

 このような事例への対策として、「民事信託」を用いる方法があります。民事信託とは、信託の仕組みを家族内に持ち込んだものと言えます。自宅には長男家族が居住しているため、自宅を長男と二男で分割することは現実的ではありません。よって、甲野商事㈱の株式の承継方法がポイントとなります。

 株式は、議決権の行使など会社経営に直結する権利(ア)配当など経済的利益を享受する権利(イ)に分けることができます。この特徴を生かし、(ア)を長男に相続させ、(イ)を長男と二男に相続させる内容の遺言を作成します。そうすると、(ア)を相続した長男は、会社経営に携わることができ、(イ)の一定割合を相続した二男は、配当など経済的利益を得ることができるという訳です。なお、遺留分の計算においては、(ア)を考慮する必要はなく、(イ)を考慮すれば足りるとされています。

 では、上記のような民事信託という方法を用いず、単純に株式を二人に相続させた場合はどうでしょうか。二男は(イ)を一定割合で相続できるので、同様に問題の解決に繋がりますが、一方で(ア)も相続することになるため、会社経営にも口出しすることが可能となります。会社の後継者である長男としては受け入れがたいと思われ、会社経営の安定化を図るうえでも好ましい状況とは言えないでしょう。

 今回は遺言で民事信託を設定する事例を紹介しましたが、太郎さんの生前から株式に関する民事信託を設定し、太郎さんが亡くなった後もその仕組みを継続するという方法もあります。遺言や民事信託に関するご相談は、お近くの司法書士または埼玉司法書士会にお申し付けください。

(司法書士 押井崇)

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和4年9月1日から転載

 

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