■経営者のための相続・遺言(Vol.1)~役員が死亡した時は、商業登記も忘れずに~
会社経営に関わっている役員に相続が発生した時、その相続人は、会社と役員の複雑な権利関係の整理や、不動産、株式、保険と多岐にわたる財産の調査など多くの時間と労力を費やすことになると思います。もしかすると、各相続人に様々な考えがあり、容易に財産の相続先が決まらないというケースだってあるかもしれません。しかし、相続税を期間内に納付しなればなりませんから、そこは税理士が中心になって、財産を評価し、相続税を試算し、相続人の皆さまに説明をして、どうにか期間内に納付まで完了することでしょう。
さて、ここで、しばしば忘れ去られてしまうことがあります。それは本稿のタイトルの商業登記です。数か月をかけて、前述のような相続手続きをしていたのであれば、忘れてしまうのも仕方ないかもしれません。しかし、会社の役員は登記事項ですから、変更が生じたのであれば2週間以内に登記申請しなければなりません。役員の死亡を例外としてくれるような規定はないのです。したがいまして、しばらく経ってから登記申請し、裁判所から過料の通知が届いてしまうことがあります。
役員の死亡の登記なら簡単に出来ますか?とのご質問には、会社の状況によりますという回答になります。例えば、取締役がAB、代表取締役がA、株主もAのみとする会社で、Bが死亡した場合は、簡単なケースが多いです。Bの死亡を証する書面と登記申請書を法務局に提出すれば、取締役の死亡の登記は可能です。
一方で、取締役兼代表取締役兼株主Aという会社で、Aが死亡した場合はどうでしょうか。他に取締役はいません。このケースは検討すべき事項がかなり増えます。日頃は、意識されてないかもしれませんが、株主総会を招集するのは、原則、取締役です。その取締役が死亡しています。取締役を選任できるのは株主総会だけです。このままですと取締役のいない会社なので、どうにかして株主総会を招集しなければなりませんが、誰が招集するのでしょうか。この場合は株主が株主総会を招集しますので、Aの相続人が招集します。会社の株式をどの相続人が相続するかすぐに決まれば、その相続人が招集しますが、すぐに決まらないこともあるでしょう。その場合は相続人間で株式の権利を行使する相続人(株式を相続するわけではありません。)を決めて、その相続人が招集し、取締役を選任します。この手続きは会社が法人税の申告のために株主総会で決算の承認が必要な場合も検討することがあります。また、役員が1名死亡したことで、会社の機関設計の変更(取締役会の廃止など)を要する場合もありますので、会社がどのような機関設計か確認も必要です。役員の死亡の登記だけでも会社の状況により検討すべき事項は様々です。
相続および商業登記に関するご相談は、お近くの司法書士にお寄せください。
なお、埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください)でも相談を受け付けておりますので、お気軽にお問合せください。
(司法書士 樋口 隆)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和6年9月1日から転載