
■親亡き後問題と成年後見制度

知的障害がある息子は、親の全面的な世話により自宅で生活していますが、年とともに世話も難しくなってきました。そろそろ息子に親の代わりの支援者をつけたいと思います。制度や手続きについて教えてください。

知的障害または精神障害がある方を支援する制度として、成年後見制度があります。家庭裁判所から選任された後見人等が、本人の意思決定を尊重し、本人が希望する場所で生活ができるように、通所のヘルパーの契約など必要な契約を行い、本人の銀行口座の入出金の管理を行って、本人の生活や財産を守る制度です。この制度を利用するためには、本人の親など4親等内の親族が、診断書など必要書類をそろえ、申立手数料と併せて管轄する家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。診断書等の結果により、本人の支援のために必要な役割を担う補助人・保佐人・成年後見人のいずれかが選任されます。ここでは後見人等と表しますが、後見人等は複数人を選任したり、途中で交代することもできます。例えば、親が元気なうちは、親が後見人等になり、後に本人の兄弟や司法書士などの専門職に引き継ぐ、または当初から、親と専門職を後見人等として一緒に選任してもらうという方法もあります。親と一緒に専門職等の後見人等を選任してもらえれば、本人も支援者側も安心するかもしれません。
なお、本人に障害があったとしても、契約を行う判断能力がある場合は、本人と受任者が契約で支援内容を定めておく任意後見契約を利用することもできます。
また、親に相続が発生した場合に、子どもに障害があるために相続の手続きができなかったり、他の相続人との遺産分割協議が進まないときがありますが、成年後見制度を利用することによりスムーズに手続きを進めることができます。障害がある子やその子の面倒を見てくれる親族等に多く財産を残したい場合は、遺言書を作成しておく方がいいでしょう。
さらに、成年後見制度を補完する制度として、信頼できる人に財産管理や処分を託す民事信託(福祉型の家族内の信託)という制度もあります。親亡き後も、ご自分の財産を障がいがある子へ継続的に確実に生活資金を渡すために、成年後見制度と民事信託の制度を併用することもあります。
成年後見制度・遺言・民事信託の制度の利用に当たっては、お近くの「暮らしの身近な法律家」の司法書士、または埼玉司法書士会(電話048・863・7861)にお尋ねください。
(司法書士 髙橋明子)
埼玉新聞 令和7年2月6日から転載