■認知症の父の土地上にアパートを建築したい
最近の相続税改正で、基礎控除額が引き下げられたことによって相続税の納税者が増える、と新聞報道等で知りました。私の父も、現在の財産状況と収支を鑑みると相続税の対象者になりそうです。一般に、所有の土地に賃貸アパートを建設すると、その借入金によって相続財産が減少するので相続税対策になる、と聞きました。
ところが現在父は認知症の常況にあり、賃貸アパート建設に関する契約その他諸々の行為は出来そうにありません。最近成年後見人という言葉をよく耳にしますが、この成年後見人を選任してもらえば、父に代わって契約等をしてもらえるのでしょうか。父も認知症を患っていなければ、自分の死後の相続税の支払額は減らしたいと考えるはずで、きっとこの計画に賛成してくれたことと思います。
結論から申し上げますと、お父様の土地上に、借入をして賃貸アパートを建設することは難しいと思われます。成年後見制度の理念・原則はご本人(お父様)の財産をご本人の幸福のために使うということにあります。生前の相続税対策は残された相続人のためであって、ご本人の利益になるとは限らないからです。仮にお父様の意識がしっかりしていた時に、賃貸アパートの建築について前向きな発言をしていたとしても、その意思が現在も維持されているかどうかは、誰にも分からない事です。更に言えば現在は建築したくないと考えているかもしれません。
アパートの建築ということですから、数千万円単位の借入になると思われますが、こうした多額の借金をご本人の意思に基づかずに行うことは出来ないのです。また、金額の多寡にかかわらず、安価な借入であればよいという事でもありません。現状で成年後見申立をした場合、お父様の判断能力が相当程度低下しているということであれば、成年後見人等(保佐人、補助人など)は選任されると思われます。しかしながら、借入という行為は家庭裁判所の判断を仰ぐことになりますが、恐らく不相当となるでしょう。折角お父様は、ある程度の財産をお持ちのようですので、ここは是非お父様が今後も幸せな生活を送るために使って差し上げてはいかがでしょうか。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 森本賢一)
※埼玉新聞平成28年1月7日から転載