
■配偶者(短期)居住権の新設

現在、私は夫の家で夫と2人暮らしをしています。1人娘と折り合いが悪く、夫が亡くなった場合、このまま夫名義の家に住み続けることができるか不安です。

妻(配偶者)が夫(被相続人)の所有する建物に相続開始時点で、無償で居住していれば、6カ月間は無条件かつ無償で住み続けられます(配偶者短期居住権)。それ以降になると、娘さんとの遺産分割が必要になります(配偶者居住権)。
1 配偶者短期居住権の新設
配偶者短期居住権とは、配偶者が相続開始時に遺産である建物に無償で住んでいた場合には、最低6カ月の間、居住建物を無償で使用することができる権利です。従来の制度では、誰かに家が遺贈されたり、被相続人が配偶者に家を使わせないという内容の遺言を残していたり、配偶者が相続放棄をしたりすると、配偶者はそれまで住んでいた家に住むことができない、ということが起こり得ました。しかし、この配偶者短期居住権が新設されたことにより、相続発生から必ず6カ月間は居住できる権利が確保されるので、突然住む場所を失う心配がなくなります。
2. 配偶者居住権の新設
配偶者居住権は、長期の居住権で、配偶者に終身又は一定期間、建物の使用を認めることを内容とする権利です。配偶者短期居住権のように相続開始とともに当然に発生するものではなく、遺産分割や被相続人の遺言などによって取得することができる権利です。これまでは、配偶者が遺産分割で家を取得すると、遺産の額や内容によっては家以外の他の財産を受け取ることができず、生活費が不足するなどの問題がありました。しかし、配偶者居住権が新設されたことにより、家は他の相続人が相続し、配偶者は配偶者居住権を取得することで、家に住み続けながら他の財産も取得できるようになります。
例えば、夫が亡くなり、夫所有の財産が自宅1000万円及び預貯金1000万円の場合、妻と子の法定相続分は1:1(妻1000万円・子1000万円)です。法定相続分で相続しようとすると現行制度では、妻は居住建物を取得すると、相続分の1000万円に達してしまい、預貯金を受け取ることができずに生活費が不足するかもしれない、という不安が残ります。新制度の下では、居住建物1000万円を、配偶者居住権500万円、負担付所有権500万円に分けることができます。(配偶者居住権の価値は、建物敷地の現在価値、負担付所有権の価値によって変わりますが、仮に500万円とします。)この場合、妻が配偶者居住権500万円及び預貯金500万円、子が負担付所有権500万円及び預貯金500万円を取得するので、妻は自宅に住み続けながら生活費も確保することができ、安心して暮らしていけます。
3.施行日
配偶者(短期)居住権の規定は、令和2年4月1日から施行され、同日前に相続開始となった場合には従前の規定になりますので、ご留意願います。
詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)にお尋ねください。
司法書士 知久 博
※埼玉新聞 令和2年2月6日から転載