■2020年4月1日に施行される民法(債権関係)改正法についてvol.2
約款というと、多数取引の画一的処理のため、あらかじめ定型化された契約条項を意味するとされています。例えば、保険契約や銀行取引、ホテルの宿泊の場面等で用いられています。この度の法改正では、粘り強い反対論のあるなか、約款に関する規定が新たに設けられることになりました。
それでは、なぜ、反対論があったかと言うと、一般的に、契約書は、それを作成した側に有利な内容となる傾向があります。契約書を作成する際に、わざわざ自分に不利な内容を盛り込む必要はないからです。これが約款になりますと、小さい字で書面にびっしり書かれているため、普通の人間であれば、まったく読まずに契約の締結に至ったとしても不思議ではありません。そのため、約款を作成する側(以下「約款作成者」と言います。)からすれば、取引の相手方に気づかれることなく、自分に有利な内容の約款を用いることができたわけです。これを規制することになるのが、この度の法改正になります。
さて、約款に関する規定が新設されると言いましても、その対象は限定されています。まず、約款が用いられる取引が、法律上の「定型取引」に該当することが条件になり、①不特定多数の者を相手方とする取引であって、②その内容が画一的であることによって、取引の当事者双方にとって合理的となるものが、定型取引とされています。これがまた分かりにくい表現で困ってしまうのですが、例えば、労働契約は、相手方の個性を重視して行われる取引であるため上記①には該当せず、また、事業者間での取引において、その内容が交渉によって決められるのであれば、上記②には該当しないとされています。
ここで注意したいのは、定型取引に該当することとなった場合、そこで用いられる約款は「定型約款」と呼ばれることになりますが、定型約款を用いる際には、3つのルールを守らなければならないことです。
一つ目のルールとして、定型取引において、定型約款を用いる場合、少なくとも、約款作成者がそのことを相手方に知らせる必要があります。そして、相手方から請求があった場合、書面やホームページなどで定型約款の内容を開示しなければなりません。これらを守らない場合は、定型約款を用いることができなくなったり、契約違反の責任を問われるおそれが生じます。
二つ目のルールとして、定型約款の内容として、相手型の利益を一方的に害する条項を用いることができません。例えば、相手方に対して過大な違約金を課したり、約款作成者の契約違反の責任を免除するなどの条項があった場合、その条項は無効となる可能性があります。現在でも事業者と消費者との間の契約に関し、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされていますが、事業者間契約においても、定型取引に該当するのであれば、同様のルールに服することになりました。
最後は、定型約款の変更に関するルールです。定型約款を変更するにあたっては、相手方に有利に変更する場合と何らかの不利益が生じる場合の二つが考えられます。前者であれば特段の問題は生じないのですが、後者の場合ですと、定型約款を変更することに合理性がなければならず、具体的には、契約した目的、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更に関する条項の有無などによって判断されます。そして、そのいずれであっても、定型約款の変更が効力を生じるまでの間に、変更の時期やその内容について、インターネットなどを利用して相手方に周知する必要があります。
(債権法改正対応委員長 嶋根琢磨)
※越谷商工会議所会報「鼓動」令和元年9月1日から転載